鎌田 慧:ドキュメント 屠場 (1998)

6 月 27th, 2006

牛、豚を解体し食肉化する「屠場」や、そこで働く労働者たちを取材したルポ。一般にはなじみの無い食肉加工のレポートも興味深いが、同時に従来から根深い差別問題にもフォーカスする。

差別問題に関して本書を読んだ限りでは、労働者たちの社会闘争が何をゴールにしているのかという点にわかりずらさがあるように思う。蔑視や偏見が解消されることだろうか。あるいは過去にあったタダ働きの風習的なものを解消して、待遇をよくすることだろうか。

本書で登場する熟練労働者は、最近の機械化された工程では歩留まり(食べられない部分を廃棄して残った割合)が悪くなると嘆き、熟練者の職人芸をすばらしいという。しかし、熟練者に使う人件費が機械化の費用を大きく上回り、それが歩留まりの上昇でカバーできないと、経営者は熟練労働者を何人か減らそうと考えるかもしれない。ひょっとしたら差別問題のゴールは、そうした労働者の減少によって起こる運動自体の終焉かもしれないのだ。

【関連書籍】
溝口敦:食肉の帝王 (2004)
 同和問題を巧みに利用して巨大企業グループを築いた、浅田満のノンフィクション。

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吉村昭:東京の戦争 (2005)

6 月 27th, 2006

太平洋戦争の戦中・戦後に、疎開もせず徴兵もされず、東京にあって戦争を経験した著者の回想記。普段のノンフィクション小説と同様に資料調査も怠りなく、当時の人々や自分自身を見つめる淡々とした筆致が心地よい。台東区日暮里、足立区、千葉県浦安市などが舞台。

吉村の回想記は、太平洋戦争関連の体験記によくある説教くささが無い。浅草や上野鈴本の寄席に通い、甲府に一人旅して葡萄を食べ、墓場で男女の性交を目撃したりする。それでもノースアメリカンB25の目撃から、激しい空襲の体験、至近弾に生きた心地もなかったこと、物資の不足に伴う貧しい生活を回想する。

敗戦は衝撃、戦後の価値観の大転換は憤りをもって語られる。戦争の質がどうであれ、生活に密着して全力をかたむけてきた事業が無条件降伏といわれて終結したのは、当時の人たちにとって大きな心の傷になったのではないかと思う。

激しい空襲の後に浅草の劇場を心配して見に行ってしまうとか、バナナを皮ごと食べる親戚の子を見てうろたえる吉村少年も面白い。そんな普段どおりの日常と、生命とアイデンティティの危機にさらされた戦争体験が交錯し、リアリティを感じさせる。

【関連書籍】
歴史・時代小説カテゴリ
 吉村昭のほかの著作を紹介。

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