7 月 29th, 2006
問題の設定、仮説の構築、仮説検証のための社会調査の設計や分析手法など、社会科学分野ではおなじみとなった手法の解説書。その分野で研究論文やレポートを書く大学生、大学院生に適している。
こうした手法は、先輩の論文や学会論文誌などを読むことで身に付けていくことができると思うが、なぜそんな手法が一般的になっているかといった原理、原則に踏み込む機会はあまりないと思う。先生方も、一般的約束として話しはするかもしれないが、それ以上は面倒くさがって教えたりはしないかもしれない。約束を知って使うことができるのは結構だと思うが、思想的背景の理解がなければ、手法をツールとして使いこなすまでは至らないだろう。
本書では、60年代の学生運動をはじめとした著者の思想遍歴、留学経験などを交えながら、現代の社会科学における研究手法が開発された経緯を知ることができる。著者の経験談は、方法論の解説にありがちな抽象的な話しを、ひとつの事例として具体化する効果があり、大変わかりやすい。
学生ではない社会人でも、問題設定や調査設計が重要なミッションである商品企画、マーケティングに携わる人であれば、多くの示唆が得られると思う。20年以上も前の本であるが、現在でも通用する思想的ツールを与えてくれる。
カテゴリー: 新書, 社会学 |
タグ: 1979 | コメントはまだありません
7 月 29th, 2006
明治時代、脚気病の対策を切り拓いた軍医・高木兼寛の伝記小説。当時の脚気は、原因がわからないまま下士官に多数の死者を出す奇病であったが、高木はフィールドワークによって米食が原因ではないかという仮説を立てる。この仮説に従ってパンや牛肉が中心のメニューに切り替えたところ、海軍の脚気は一気に解決に向かう。しかし学会では、その原因をめぐって陸軍軍医・森鴎外らと激しく対立する (Wikipedia:脚気、高木兼寛)。
この小説の一方の側面は、戊辰戦争当時は薩摩藩の従軍医師であった高木が、海軍軍医総監にまで昇りつめる立身出世の話でもある。近所の私塾塾長など、指導的立場の人物から才能を認められ勉学の機会を得て、ついにはイギリスへと留学し、学位を取得して帰国する。
脚気の原因説をめぐっては、ドイツ医学を修得したエリート軍医・森鴎外らと対立する。これはむしろ、方法論の対立といっていいだろう。当時のドイツ医学は、基礎理論を重視するアカデミックなものであったが、高木が身に付けたイギリス医学は、臨床やフィールドワークを重視する現場主義的なものであった。高木はイギリス医学の伝統的方法に従って脚気を解決するのだが、鴎外らの目にはルール違反のように映ったのであろう。
しかし、鴎外は小説家としてよく知られている。小説家としての日常が拡大していくにしたがって、こうした論争とも疎遠になっていったようだ。趣味的な論争だったのかなという気もするが、高木を通して鴎外の意外な一面を知ることができる。
白い航跡〈上〉 (講談社文庫) 吉村 昭
講談社 (1994-05)
ISBN-10: 4061856790
ISBN-13: 9784061856790
白い航跡〈下〉 (講談社文庫) 吉村 昭
講談社 (1994-05)
ISBN-10: 4061856804
ISBN-13: 9784061856806
カテゴリー: 歴史 |
タグ: 1994, 吉村昭 | コメントはまだありません
7 月 27th, 2006
1997年の神戸市で、小学生男児が殺害された上、首を切られて中学校の正門前に放置される猟奇殺人が起こった。本書は、この一連の事件をまとめたノンフィクション・ドキュメント。加害者が14歳の中学生であったことで報道が過熱し、少年法改正の論議に及ぶなどした(WikiPedia:神戸連続児童殺傷事件)。事件の経過はもちろんのこと、話題になった犯行声明や、家庭裁判所の処分決定要旨なども全文掲載されている。
この事件は、被害者、加害者にとっても大変な出来事だと思うが、それ以上に周囲の人物たちの苦しみがあるように思う。例えば、加害者の母親は、犯行に先立って児童相談所を訪れている。本書では、母親が無意識のうちに危機感を感じたうえでの行動と想像しているが、おそらくその通りであろう。しかしながら、少年審判の決定要旨などを読むと、生育歴のなかで母親との関係に少しばかりの問題があったことも指摘されている。こうした指摘は、母親や両親を苦しめたに違いなく、本書末尾に掲載された両親の謝罪文からも、困惑や悲しみなど複雑な感情が読み取れる。
本書の述べるところでは、加害者周囲のいずれもが、加害者を受け止めることができず、不運が重なったとしている。こうした社会システムの弱点は、加害者の少年ばかりでなく、社会生活をする人すべてにとって当てはまることであろう。また、大多数の人は、加害者の周囲と同じ立場に立たされたとしても、具体的な行動は取れなかっただろう。そうした点でも非常に難しい事件で、同時に重要な問題提起があるように思われた。
カテゴリー: ノンフィクション, 社会病理・犯罪 |
タグ: 2000 | コメントはまだありません
7 月 18th, 2006
誘拐、立てこもりなどの危機的犯罪を専門に扱う、警視庁捜査一課特殊班の活動をまとめたノンフィクション。扱っている実際の事件は、昭和60年代から平成元年以降の数年内に起こったもので少々古いが、緊迫した捜査活動の内容が詳しく述べられている。
本書を読むと、誘拐など緊急対応を要する犯罪が、少しの失敗で恐ろしく結末が変わるのだという厳しい現実があることに気付かされる。誘拐犯からの電話の逆探知は、体勢を整えるまで時間がかかるし、家族らの協力も不可欠である。例え逆探知に成功しても、犯人がすばやく移動すれば補足は容易でない。犯人補足のために、広域に人員を配置しようとすると、訓練を受けていない警官まで駆り出すことになり、訓練のあるなしは緊急時の対応を大きく分ける。
人員が広域に点在すると、企業組織でもよくあるコミュニケーションの問題が発生する。誘拐などは保安上、通常の警察無線を使えない場合もあるため、コミュニケーションの失敗が危機につながる。特殊班の事件は、通常業務と異なるプロジェクトチーム形式で操作にあたるが、これはコミュニケーションの問題をさらに深刻にする。
なじみのない特殊班の内幕が詳しくわかるのはいいが、人物のしゃべりが刑事ドラマじみているのはなんとなく辟易する。本当にそうしたセリフをしゃべっているのかもしれないが、せっかくのリアリティが台無しである。多くは捜査官へのインタビューを元にしているようだが、人々の記憶は時間経過によって変化するものである(菊野春雄:嘘をつく記憶(2000))。むしろ家族を思って強行突入を断る警官のほうが、リアリティを感じさせる。
カテゴリー: ノンフィクション |
タグ: 2004 | コメントはまだありません
7 月 16th, 2006
ブログを自社のプロモーションに取り入れて、収益につなげる仕組み作りの方法を述べた本。話題のブログをビジネスに生かしてみたいと考えている中小企業の経営者、個人事業主向け。社長や担当者の個性を前面に出して、積極的なコミュニケーションで見込み客の常連読者をつけ、自社のビジネス領域にかかわるコンテンツを頻度高く更新し続けよ、ということのようだ。
前半部分で成功事例をあげているのは、わかりやすくていい。著者は、自身のビジネスとブログの最大のテーマは「ビジネスブログの使い方」のような表層的なものではなく、ビジネス・コミュニケーションの重要性や楽しさを伝えることがコンセプトだという(98頁)。これはブログのコンセプト設定が、自社の経営方針、経営理念などの延長線上にあるという指摘であると思う。
残念なのは、著者がそこまで理解しながら、経営理念を導出してブログのコンセプトにまでブレークダウンする方法にまったく触れていないことである。私自身の印象では、中小企業の経営者や個人事業主の多数は、そうした経営理念の設定ができていない場合が多いのではないかという気がしている。したがって、ブログの成功事例などを出されてもピンとこないか、表層だけ真似ようとして途中で放棄してしまうことが起こりえる。
経営理念の設定とブログコンセプトの導出に役立ちそうなのは、少々古いが定番の川喜田二郎「発想法」(1967)であろう。その他、発想法、KJ法関連の書籍が大いに参考になると思う。ブログの成功事例を読んで、「自分の場合はこういうブログを書けばいいな」というひらめきが無かった場合は、たいへん役立つだろう。
ちなみに無料ブログは多数存在するが、ブログでコミュニケーションをするのに向いているのは、Yahooブログ、楽天広場ではないかと思っている。
カテゴリー: IT・Web, ビジネス・経営 |
タグ: 2005 | コメントはまだありません