12 月 21st, 2008
未来の日本、超能力教育が中心になった学校や社会を舞台にした、少年少女たちの物語。
少女・早季らは学校生活で念動力を習得する。キャンプ旅行で偶然にも社会の秘密に触れてしまうと、規律違反として能力を封じられる。鼠部族の紛争に巻き込まれたあと、自力で能力を復活させ、大人たちの目をごまかして日常へ復帰する。少年少女たちは、この社会を支配する力をたくみにかわしたと思っていた。しかし親友を失う事件が起き、物語は不穏な様子をみせて下巻へ続く。
まず本の分厚さに驚かされ、分量を生かした余裕のある物語運びに少し退屈するが、少女たちが社会の秘密に触れるあたりから急激に面白くなり、止まらなくなった。物語は陰謀論や管理社会への抵抗を枠組みにしているが、主人公たちの非力さが社会の強大さと対比して、面白さの味付けになっていると思われた。いわゆる「ハラハラドキドキ」である。厳正な枠組みの中で主人公たちが苦闘する話は、同じ著者の「クリムゾンの迷宮 (角川ホラー文庫)」を思い出させる。実にエンターテインメント色の強い小説。
新世界より 上 貴志 祐介
講談社 (2008-01-24)
ISBN-10: 4062143232
ISBN-13: 9784062143233
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7 月 11th, 2006
道子は、幼いころに火事跡で見た不気味な人影が忘れられない。ある夜、夢の中で再び人影を見る。しかしその夢には娘の真由も現れ、なぜか奇妙な現実感を持っている。人影に追われ、道子らの逃げた先をさえぎったのは、バケツのような乗り物に乗った少年と、その師匠だった。
装丁がSF・ファンタジー風で先入観にとらわれてしまうが、ストーリーのベースとなる登場人物は、宮部が得意とする現代の平凡な人々である。人々の見る悪夢やその原因になっている過去の事件は、異常で不気味なのだが、記憶は心の奥に隠され、表面的には平穏が守られる。
ストーリーの途中で過去は徐々に明らかにされ、時折ちらりと不気味な複線となって現れ、それらが合流して結末へと向かっていく。こうしたストーリーの流れのために、登場人物が平凡を外れる異常体験を持っていたとしても、読者が彼らを拒否することはない。むしろ登場人物に同情し、理解する。心の傷を負った人々に向ける著者の温かいまなざしを感じさせる。
ドリームバスター 宮部 みゆき
徳間書店 (2001-11)
ISBN-10: 4198614423
ISBN-13: 9784198614423
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7 月 9th, 2006
定年を迎えた上司に、男はある相談を受けた。社内のある女性の話し相手になってほしいという。その女は目立たない存在でもう若くもないが、わずらわしい自己主張もなく、男を受け入れる。しかし、男が定年を迎える立場になったとき、その女の行く末が案じられるようになった。
吉村の短編集で、多くはフィクションと思われるが、いくつかは東京の戦争とも関連するストーリーで、私小説の体裁を取っている。物語の視点は、定年を迎えた男性が多いが、内容は彩りがあって多様である。
碇星 (中公文庫) 吉村 昭
中央公論新社 (2002-11)
ISBN-10: 4122041201
ISBN-13: 9784122041202
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7 月 3rd, 2006
気弱な中学生の慎治は、優等生グループにいじめをうけていた。ついには自殺を考えるが、担任の古池に察知される。古池は、自殺するくらいなら学校へ行くなといい、自宅に慎治を引き込む。そこで慎治はガンプラ作りに夢中になり、古池の友人からサバイバルゲームや格闘技の手ほどきをうけ、学校とは別の世界が大きく広がっていたのを知る。
外側の世界から学校の枠組みを相対化できれば、学校の中での価値体系は強さを失い、いじめの解消に一役買うだろう。しかしそれは、学校それ自体の価値を否定することにつながりかねない。むしろ学校は、そこで優先されるような価値観がこの社会をおおっていることを身をもって知る場所である。卑劣ないじめっ子が放置されるという、綺麗事が通じない欠陥社会に、我々は生きているのである。
現状では、いじめを解決するには個人の努力しかないというのは、担任の古池が言っているとおりであると思う。そうでなければ、枠組みの秩序はくずれさる。「自分が死ぬくらいなら、相手を殺すしかない」と古池が言うように、殺人すら肯定される混沌とした世界が広がってしまう。
だからといって、周囲が何もしなくてよいということではない。自分一人ではないと思うように、彼らを強くバックアップする必要がある。それに、そうして若い彼らに広い世界を教えていくというのは、きっと楽しいことであろう。
【関連書籍】
中嶋博行:君を守りたい (2006)
いじめ被害の事例を紹介し、救済策を提言。
慎治 今野 敏
双葉社 (1997-08)
ISBN-10: 4575233080
ISBN-13: 9784575233087
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7 月 2nd, 2006
近未来の日本・福岡に、北朝鮮の特殊部隊が襲来。日本政府は福岡を見放し、市民は占領を徐々に受け入れる。しかしイシハラをはじめとする社会不適合者たちのグループは、北朝鮮軍と戦うことを決意。
著者の過去の作品群はかなり多様ではないかと思うが、それらうちいくつかは社会問題や経済評論のような内容を巧みに小説へと昇華させているものがある。本作も、東アジアの国際情勢、日本の政治問題、社会問題といった内容が、エンタテイメントをまとった読める小説になっている点が白眉である。
過去作品では、五分後の世界(1997)、希望の国のエクソダス(2002)といったものを思い出させる。そうした点では、著者は一貫しているともいえるし、またそれらが面白く読めた人であれば、本作も面白く読めるだろう。
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