塩野七生:ローマ人の物語 勝者の混迷

12 月 20th, 2008

有名な塩野七生による、古代ローマ、ローマ帝国をあつかったシリーズ。

文庫6巻(勝者の混迷 上巻)は、前半でグラックス兄弟の登場から死まで、後半でガイウス・マリウスとスッラが登場する。グラックス兄弟は農地法に手をつけて元老院議員らの既得権をおかしたため、不評をかって謀殺される。ガイウスとスッラは北アフリカの戦争(ユグルタ戦役)で名声を上げる。執政官となったガイウスは軍制を改革して志願制に切り替え、ローマ軍の戦力をあげることに成功するが、これによって不公平感のつのった同盟都市市民が反乱を起こす(同盟者戦役)。

文庫7巻(勝者の混迷 下巻)は、前半でスッラの台頭が終わり、後半でポンペイウスが登場する。スッラとの政争に破れたマリウスが、好機をつかんでローマに入城する。しかしマリウスは、スッラの小アジア遠征中に死亡。スッラはローマに入り、残った民衆派を一掃して独裁官に就任する。その後、その強権をもって元老院の強化など政治改革を行うが、あっさり引退する。
この時、スッラに加担したポンペイウスは、スペインの反乱鎮圧で功績をあげて戻ると、立候補資格に難がありながらも執政官に就任する。その後、地中海の海賊掃討、イエルサレム遠征を成功させ、共和政ローマの版図を拡大し莫大な戦利品をもたらす。

著者の叙述も簡素でしつこくなく、なじみのない古代ローマの人名、用語も気にならず読み進めることができる。有名な本なのに特に関心をもっていなかったが、期待にたがわず読みやすくて面白く、示唆に富んでいて、すべての人におすすめの本として完成しているといえる。

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鈴木由紀子:大奥の奥 (2006)

11 月 26th, 2006

徳川将軍家の大奥に関する日本史解説本。御台所や側室の話しも面白くわかりやすいが、現代のキャリアウーマンと重ね合わせた大奥女中の解説が興味深い。

大奥女中は、将軍側室候補という意味合いもあるが、大奥の実務面で強大な権限を持つ御年寄に連なるキャリアウーマンでもある。また、大奥での奉公経験は、現代の一流企業一般事務職のように、花嫁の経歴に箔をつけ、よい縁組を得るきっかけになるという。(Wikipedia:大奥)

大奥というと、すべて将軍の子作りのためにあると思いがちであるが、本書が示すように、女性の経歴として非常に有望な舞台でもあった。大奥女中のスタートは、多くは幕臣の子女が幼い頃から大奥入りし、雑用からはじまって次第に要職へと上り詰めていく。幸運な幾人かは将軍お手つきとして側室となり、子が生まれて成長し、さらにその子が将軍になれば、将軍生母として強力な権限と華やかな生活を享受することができる。

そうした将軍生母へつながるキャリアパスとは別に、御年寄を最高位とするキャリアウーマンとしての道も用意されている。キャリアウーマンの大奥女中として権勢をふるったものとしては、古くは3代家光の乳母でもあった春日局、5代綱吉の頃にスキャンダルで遠島刑になった絵島(江島生島事件)などが有名である。ほかにも、綱吉のころ、中宮付きの宮廷女官からいきなり上臈御年寄として大奥入りした右衛門佐、家斉のころに老中水野忠邦をやりこめた姉小路など、魅力的な人物の来歴が語られる。

【関連書籍】
鈴木尚:骨は語る 徳川将軍・大名家の人びと (1985)
 将軍家墓所の発掘調査から、将軍や御台所の生活史を明らかにする。

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関口すみ子:大江戸の姫さま (2005)

11 月 19th, 2006

江戸時代、将軍や公家、有力大名に嫁いだ姫を扱った本。姫の生活や輿入れ前の政治事情、輿入れ道中の様子などを当時の史料や写真をもとに描き出す。上級公家や将軍の娘が大名に嫁ぐことで、実質的には「夫より上位の妻」ができあがるが、明治以降はそうした姫の話題が巧妙に隠され、「夫に仕える従順な妻」に書き換えられていったという。その背景には、男尊女卑的なイデオロギーにとって都合の悪い、「夫より上位の妻」を隠したいという意図があったと指弾し、そのとばっちりで姫の話題はマイナーになったと主張する。

個人的なイメージでは、こうした日本史解説本の著者は年配の大学教授や作家で、表紙見返しに写真を載せたりする人は、本書以外では今まで知らない。本書の著者は、肩書きでは法学領域の専門家で、本を開いて最初にある略歴ではかなり違和感を感じる著者だと思ったのだが、やはり何か独自の主張したいところがあってそうしていたのだというのがわかると、少し残念に思った。

そういう著者の意図がわかっていれば、なぜその姫を話題として扱うのかがわかってくるのだが、通常の日本史本に慣れた人にとっては、各エピソードの前後で違和感を感じるだろう。無料サービスにつられて入った事務所で、何万円もする商品を買わされた気分である。

姫に着目する点も、夫より上位におかれた姫が婦徳に置き換えられたという仮説も着眼点としてかなりいいが、単純に日本史や過去の人物の人となりに触れたいという人には向かない本である。

【関連書籍】
鈴木由紀子:大奥の奥 (2006)
 大奥のエピソードを、細やかな史料解釈とともに語る。
鈴木尚:骨は語る 徳川将軍・大名家の人びと (1985)
 将軍家墓所の発掘調査から、将軍や御台所の生活史を明らかにする。

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吉村昭:白い航跡 (1994)

7 月 29th, 2006

明治時代、脚気病の対策を切り拓いた軍医・高木兼寛の伝記小説。当時の脚気は、原因がわからないまま下士官に多数の死者を出す奇病であったが、高木はフィールドワークによって米食が原因ではないかという仮説を立てる。この仮説に従ってパンや牛肉が中心のメニューに切り替えたところ、海軍の脚気は一気に解決に向かう。しかし学会では、その原因をめぐって陸軍軍医・森鴎外らと激しく対立する (Wikipedia:脚気高木兼寛)。

この小説の一方の側面は、戊辰戦争当時は薩摩藩の従軍医師であった高木が、海軍軍医総監にまで昇りつめる立身出世の話でもある。近所の私塾塾長など、指導的立場の人物から才能を認められ勉学の機会を得て、ついにはイギリスへと留学し、学位を取得して帰国する。

脚気の原因説をめぐっては、ドイツ医学を修得したエリート軍医・森鴎外らと対立する。これはむしろ、方法論の対立といっていいだろう。当時のドイツ医学は、基礎理論を重視するアカデミックなものであったが、高木が身に付けたイギリス医学は、臨床やフィールドワークを重視する現場主義的なものであった。高木はイギリス医学の伝統的方法に従って脚気を解決するのだが、鴎外らの目にはルール違反のように映ったのであろう。

しかし、鴎外は小説家としてよく知られている。小説家としての日常が拡大していくにしたがって、こうした論争とも疎遠になっていったようだ。趣味的な論争だったのかなという気もするが、高木を通して鴎外の意外な一面を知ることができる。

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骨は語る 徳川将軍・大名家の人びと (1985)

7 月 11th, 2006

昭和33年、芝増上寺将軍墓の改葬の際におこなった、歴代将軍らの遺骨調査などをまとめたもの。その結果から、将軍家、大名家の人々の生活歴や既往の病気、常習のくせなどを明らかにする。加えて、当時や現代の平均骨格と比較したうえで、将軍・大名らの貴族形質の進行に関するストーリーを導出する。

解剖学上の所見はやや難解だが、写真、図もありわかりやすい。既存文献、資料および史実の引用が、調査の結果分析と結び付けられて説得力がある。末尾に、発掘調査当時に受けた、皇女・和宮の死因に関する投書を公表しているが、ある意味たいへん興味深い内容である。歴史の面白さや神秘性を強烈に印象づけている。

すでに30年近く前の文献だが、その後の研究も進んだことであろう。

【関連書籍】
鈴木由紀子:大奥の奥 (2006)
 大奥のエピソードを、細やかな史料解釈とともに語る。

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