畑村洋太郎:起業と倒産の失敗学 (2006)

12 月 2nd, 2006

1990年後半から2000年始めにかけて倒産した会社の記録。公刊情報のみ徹底的にを収集、分析してまとめたもので、初出は2003年の単行本。著者は元・東大大学院工学系の教授。経営や財務の専門家による著述でないだけに、分析の稚拙さはあるけれども、それが一般向けの本として読みやすくなっているという面もある。

興味を引いた事例としては、まず居酒屋チェーン・北の家族の場合である。単体の事業は順調だったにもかかわらず、買収元の企業によるマネーゲームのとばっちりをうけて倒産した事例で、不可抗力の側面が強く、失敗事例として興味深い。インターネット広告業と無料ISPを組み合わせたハイパーネットの事例は、堀江貴文以前のlivedoorと結果的にまったく同じビジネスモデルで、ISPと広告業の相性の悪さが興味を引いた。といってもこの事例は、経営者の能力不足によるところが大きいように思われる。

どんなに能力がある経営者であっても、きわどい意思決定によって急速に状況が悪くなり、ついには倒産した、というのであれば失敗データベースとして価値がある。例えば、北の家族の例は、身売りする先にも十分注意しなければならないことを強く警告している。しかし本書の多くの事例では、経営者が違っていれば回避可能であったかもしれない、というものが多いように思われる。例えば、ハイパーネットの事例である。

それは事後的に事実をたどっているのでそう思うのかもしれないが、その一方で、相当に多くの能力不適者が経営者になっているということであり、そうした経営者に率いられる人々がいるということである。能力不足の経営者についていった人たちは、その後どうなったのだろうか。本書の事例だけでも、かなり多くの失業者が発生しているはずである。

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鈴木由紀子:大奥の奥 (2006)

11 月 26th, 2006

徳川将軍家の大奥に関する日本史解説本。御台所や側室の話しも面白くわかりやすいが、現代のキャリアウーマンと重ね合わせた大奥女中の解説が興味深い。

大奥女中は、将軍側室候補という意味合いもあるが、大奥の実務面で強大な権限を持つ御年寄に連なるキャリアウーマンでもある。また、大奥での奉公経験は、現代の一流企業一般事務職のように、花嫁の経歴に箔をつけ、よい縁組を得るきっかけになるという。(Wikipedia:大奥)

大奥というと、すべて将軍の子作りのためにあると思いがちであるが、本書が示すように、女性の経歴として非常に有望な舞台でもあった。大奥女中のスタートは、多くは幕臣の子女が幼い頃から大奥入りし、雑用からはじまって次第に要職へと上り詰めていく。幸運な幾人かは将軍お手つきとして側室となり、子が生まれて成長し、さらにその子が将軍になれば、将軍生母として強力な権限と華やかな生活を享受することができる。

そうした将軍生母へつながるキャリアパスとは別に、御年寄を最高位とするキャリアウーマンとしての道も用意されている。キャリアウーマンの大奥女中として権勢をふるったものとしては、古くは3代家光の乳母でもあった春日局、5代綱吉の頃にスキャンダルで遠島刑になった絵島(江島生島事件)などが有名である。ほかにも、綱吉のころ、中宮付きの宮廷女官からいきなり上臈御年寄として大奥入りした右衛門佐、家斉のころに老中水野忠邦をやりこめた姉小路など、魅力的な人物の来歴が語られる。

【関連書籍】
鈴木尚:骨は語る 徳川将軍・大名家の人びと (1985)
 将軍家墓所の発掘調査から、将軍や御台所の生活史を明らかにする。

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塚田耕司ほか:RSSマーケティング・ガイド (2006)

11 月 11th, 2006

RSSと、インターネット広告ビジネスを扱った本。RSSが一般的になったのは、ユーザ自身がコンテンツを作成する仕組み(CGM)の普及があった。本書はそこから一歩進めて、RSSがビジネス上の機会とどのように関わるかを述べている。

日本国内では、おそらく2004年以降のブログ・ユーザの拡大により、RSSも広告市場での基盤を得た。RSS広告は、RSSのエントリに関連するテキスト広告やバナー広告を挿入することで成立するものである。その背景には、スパムメールの増大により広告メディアとしてのメールの衰退や、RSSや検索エンジンの発達の影響を受けた、固有ページへの直接アクセス増大によるトップページ広告の衰退などがあると本書は指摘する。

ネット上の書評サイトやAmazonのレビューで高評価を得ているのも、このあたりの考察にあるものと思われる。RSS広告の発達が、RSSの普及自体にあったのか、RSSリーダーの普及による潜在広告閲覧者の増大にあったのか、そのあたりははっきりしないけれども、Google AdsenceのようなコンテンツマッチをRSSでも可能にし、かつ市場が発達した背景がよくわかる。インターネット・サービス収益化の一角を占める広告ビジネスが、どのように成立するかという点でも、大きなヒントを与えてくれる。RSSに限らず、インターネットでの新規ビジネスを検討している人にとって役立つだろう。

RSSマーケティング・ガイド 動き始めたWeb2.0ビジネス
RSSマーケティング・ガイド 動き始めたWeb2.0ビジネス
塚田耕司,滝日伴則,田中 弦,楳田 隆,片岡俊行,渡辺 聡
インプレス (2006-02-02)
ISBN-10: 484432215x
ISBN-13: 9784844322153

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中野宗ほか:Web屋の本 (2006)

11 月 11th, 2006

Web2.0に即したホームページ制作提案をおこなうためのガイド本。ティム・オライリーによるWeb2.0論文以降の流れを詳しくおさらいし、成功を収めているインターネット・サービスを紹介している。単なるHP制作でない、少し変わった提案を行いたいと思っている業者に向いている。

しかし、そうした提案ができたから顧客満足に寄与するかといったら、疑問符をつけざるを得ない。この本では、Web2.0という一種あいまいな概念によって何が可能になり、どんなユーザ経験があらわれるかまではわかるのだが、それが顧客や顧客のビジネスにどのような恩恵があるかは語られてない。著者のいうWeb屋2.0になったから売上が伸びるかというと、それは不明のままである。

それが詳細にわかるのは、本書中ほどの事例集だろう。ここでは顧客の簡単なプロフィールと要求が述べられ、それに対して提案したWeb2.0ソリューションが紹介されている。しかし、提案後にプロジェクトが動いたかや、顧客がどのような反応をしたか、そのWebサイト開設で顧客の顧客にどのような影響を与えたかには触れられていない。顧客の企業プロフィールやインタビューもあってよさそうだが、全事例でそれがないとなると、残念ながら架空事例の域を出ないといわざるを得ない。BtoBではなく、BtoCサービスの収益化を検討しているならば、塚田耕司ほか:RSSマーケティング・ガイド(2006)の方がヒントが多い。

とはいってもこれは本書に限らず、おおむねWeb2.0の話題を扱うメディア全般に共通することだろう。それでもなお、Web2.0に関わるMBA的な言説を理解する上での入門書としては、役割十分と考えられる。

【関連書籍】
塚田耕司ほか:RSSマーケティング・ガイド (2006)
 インターネット広告モデルによるBtoCサービスを計画する上で有益。

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遠藤秀紀:解剖男 (2006)

10 月 14th, 2006

獣医学者で、動物の遺体解剖を天職とする著者による本。動物の体を系統と適応という2つの観点から分析し、素人にもよくわかるストーリーにブレークダウンする。それは極めて示唆に豊んだ物語やエンターテインメントへと変化し、最先端の知が人々の日常とつながっているのだと思わせるリアリティがある。

例えばゾウの腎臓にある溝が、クジラ、イルカ、シロクマのもつ葉状腎の名残ではないかという仮説を提示し、5000万年前のゾウの祖先は海を泳いでいたのではないかと言ってみせる。遺体解剖とその所見という専門化レベルの話が、こうした面白いイメージとつながってしまうのでは、著者がこれほどまで解剖に熱中するというのも理解できるところである。

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